海洋酸性化と酸性度(pH)
酸性度の指標であるpHは、化学の世界で使うのに便利なように定めた尺度で、水素イオン(
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問題は、大気中の二酸化炭素濃度の増加が海水の化学にどう影響するか?です。実は、海には、酸性雨のような人為起源の酸性物質の流入に対してかなりの程度まで二酸化炭素の力で抵抗してpHを維持する仕組みがあります。しかし、大気中の二酸化炭素濃度変化は、その量がはるかに大きく、海のpHを簡単に変えてしまうのです。海洋は化石燃料起源の二酸化炭素の約半分を吸収していて(参考資料1)、大気中の濃度増加を緩和しています。当然の結果ですが、その分だけ海水にガスとして溶けている二酸化炭素濃度が増加し、海洋は酸性化しつつあります。産業革命以前の大気濃度280ppmの時に海の平均的なpHは8.17程度でしたが、現在の大気濃度380ppmでpHは既に8.06程度にまで低下しました(参考資料2)。今後も表層海洋の二酸化炭素� ��度は大気濃度とともに増加し(参考資料1)、pHは低下を続けると考えられます。深い海の二酸化炭素濃度も次第に高まりますが、表層に比べればゆっくりした変化です。そのため、まず問題となるのは、海洋表層の二酸化炭素濃度増加の影響です。
生物による炭酸カルシウムの形成
pHが低くなると、何が問題になるのでしょうか?海水はカルシウムイオン(
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現在の海水では、カルシウムイオンと炭酸イオンのそれぞれの濃度が十分に高く、両者のイオンが溶けたままよりも固体の炭酸カルシウムを形成する方が安定な化学エネルギー状態になります。これを化学では「海水は炭酸カルシウムにとって過飽和状態である」といいます。現在の海洋の炭酸イオンとカルシウムイオンは、結晶ができる濃度より2~6倍ほど過飽和状態にあり、材料が何倍も過剰に存在しているので、何かのきっかけさえあれば炭酸カルシウムの固体ができます(図1)。生物はそのきっかけとなる作用で、炭酸カルシウムの結晶を容易に作ります。ところが、ガスとして溶けている二酸化炭素濃度が増えると、二酸化炭素自身が出す酸(
図1 大気
海の生物はどうなる?
炭酸カルシウムには、アラゴナイト(あられ石)とカルサイト(方解石)という2つの結晶形があります。同じ炭酸カルシウムでもアラゴナイトはpH低下で溶解しやすく、温度の低い極域の海(参考資料2)では海水のpHが7.84になるだけでアラゴナイトを作る生物が炭酸カルシウムを作れなくなるでしょう(図1)。極域の海で表層海水のpHを7.84にさせる大気二酸化炭素濃度は640ppmで、このままでは21世紀の後半に到達するとされる大気濃度です。翼足類という軟体動物(プランクトン生活をする巻貝)はアラゴナイトの殻を持つ冷たい海に住む生物なので、大きなダメージを受けるでしょう。過飽和度=1は、アラゴナイトを作る生物にとって絶滅を意味する「レッドカード」です。では、いったい、どのくらい過飽和度が低下すると生物に重大� ��影響が出るのでしょうか?
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アラゴナイトの殻を作りながら成長する海の生物の代表はサンゴです。さんご礁を作るサンゴは温度の高い海に住む生物であり、水温の高い海では過飽和度がなかなか1までには下がらないので、大丈夫かもしれません。しかし、成長に時間のかかるサンゴのような生物を、環境を制御して長期間飼育し、二酸化炭素濃度変化だけの影響を明らかにするのは難しい技術で、過飽和度がどのくらい低下したら本当の影響が出るかはまだよくわかっていません。短期間の飼育実験では、産業革命以前の二酸化炭素の2倍条件下でサンゴの炭酸カルシウム形成速度が21%低下したという研究例があります。つまり、「イエローカード」の大気濃度は過飽和度=1の線より相当上なのです(図1)。
海水の二酸化炭素増加や酸性化が生物の成長を阻害することについては、例は多くありませんが、実験的研究が知られています(参考資料4)。円石藻は大西洋などで大増殖する植物プランクトンで、カルサイトの丸い板を重ね着したような形をしています。カルサイトはアラゴナイトより溶けにくい炭酸カルシウムなので、アラゴナイトが溶けるpH7.7程度の海でも溶解するまでには至りません。しかし、円石藻の培養実験では、カルサイトの過飽和度が4から3に下がるだけでも急激な生育低下が見られました。また、ウニや巻貝の仲間を産業革命以前の大気の約2倍の二酸化炭素濃度の空気を吹き込みながら飼育する実験でも、成長が有意に阻害されたという報告があります。しかし、海洋生物で炭酸カルシウムの殻や骨格を持つ生物 には多くの種類があり、実験は不十分な状況です。
酸性化でこれからどういう変化が海の環境にもたらされるか?その予測には、まず影響のありそうな生物種や生態系、重要な機能を持つ生物種や生態系が、二酸化炭素濃度増加、酸性化にどう応答するのか?という実験的研究が必要です。ただし、方法的にも技術的にも難しいものです。今までの結果は、アラゴナイトやカルサイトの溶解に至る濃度増加より低いレベルで海洋生物への影響が起こり始め、また、生態系変化を通して海洋の炭素循環に変化が生じる可能性を示唆するものです。しかし、いずれにしても、生態系に決定的な変化をもたらすアラゴナイト溶解が水温2度の冷たい海ではpH7.84、すなわち、640ppmという大気濃度で起こるということは、海洋酸性化の問題が危急であることを意味します。
海の生物・生態系を守るには?
生態系に対する決定的影響を避ける「ガードレール」的pHはより高いところに設定すべきです。これまでの生物影響データを総合的に判断すると、決定的影響が現れるのは産業革命以前からの変化としてpH低下=0.2である、とドイツの科学者評議会声明で示されました(参考資料5)。「ガードレール」は、平均的な海水pH変化が0.17で収まる大気二酸化炭素濃度=450ppmであるという主張です。しかし、この「ガードレール」でも、極域海洋のようなアラゴナイト過飽和度が下がりやすい海では、生態影響は避けられないようです。ただし、大気濃度450ppmはEUがいう気温上昇2度の「ガードレール」と不思議によく一致しています。安定化濃度レベルは昇温による温暖化影響の程度から考える(参考資料6)のが普通ですが、全く違う尺度で安� ��化濃度レベルを評価した結果が一致しました。
海洋酸性化への対策は、それこそ二酸化炭素の大気への放出量を減らすという根本的な温暖化対策以外にありません。大気濃度を安定化できても、海洋が「吸収してしまう」二酸化炭素を処理して海洋だけ二酸化炭素濃度を抑制することはほぼ不可能です。表層海洋の二酸化炭素濃度は追っかけ大気の安定化濃度レベルと等しくなり、海洋深層の二酸化炭素濃度は時間をかけて増加して行きます。安定化濃度レベルの設定には、海洋生物と生態系への影響を考慮するべきでしょう。そして、海洋から二酸化炭素を取り除くことが困難なことは、一旦海洋生物と生態系へ影響が起こってしまった場合の回復方法がないことを意味します。
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