2012年4月12日木曜日

東京工業大学 大学院生命理工学研究科 生命理工学部|大学院・学部案内|


情報・形態形成学講座

形態形成学分野

岩﨑研究室

STAFF

岩﨑 博史 教授

研究内容紹介

相同組換えの機構は、ゲノムに多様性を与えるだけでなく、DNA修復やゲノムの安定維持に重要な働きをしています。さらに、DNA損傷などで複製が停止した際、複製を再び開始させる反応にも、積極的に働いています。私たちの研究室では、このような様々な相同組み換え(修復)の機能やその分子制御メカニズムを明らかにしようとしています。今、私たちが特に注目して解析している代表的なテーマは以下の通りです。


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1. Swi5-Sfr1複合体によるリコンビナーゼ依存的DNA鎖交換反応の活性化機能

RecAファミリーコンビナーゼは、相同組換えや組換え修復の中心的な反応であるDNA鎖交換反応を触媒します。一般に、リコンビナーゼは単鎖DNA上に結合して数珠状フィラメントを形成することが知られていますが、これが相同鎖の検索と鎖交換反応を進行する構造的実態です。また、この蛋白質核酸フィラメントの高次構造はバクテリアからヒトまで進化的に保存されていることから、DNA鎖交換の反応基盤は保存されたメカニズムによって進行するものと考えられています。ところで、真核生物のリコンビナーゼが高いDNA鎖交換活性を示すためには補助因子を必要とします。これは、バクテリアRecAリコンビナーゼと大きく異なっている特徴です。私たちは、分裂酵母からSwi5-Sfr1複合体を見出し、これがRad51やDmc1の補助因子� �して、これらのリコンビナーゼ活性を活性化することを発見しました[Haruta et al.,Nature Struct. Mol. Biol. 13(2006),Akamatsu Y. et al.EMBO J. 26(2007),Kurokawa Y. et al.,PLoS Biol.6(2008)]。現在、構造生物学者との共同研究で、Swi5-Sfr1複合体の立体構造を決定し、鎖交換反応を原子レベルで明らかにしようとしています。(図1,2)。

 

図1
N末端の一部を欠失させたSfr1CとSwi5との複合体(Swi5-Sfr1C)のX線結晶解析に基づく立体構造のリボンモデル。


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図2 Swi5-Sfr1複合体がRad51リコンビナーゼの鎖交換能を活性化する機構の作業仮説。全長Sfr1とSwi5の複合体はX線小角散乱法(SAXS)で決定した(青で示した構造)。Rad51モノマーは、ホモログのX線立体構造をもとに、insilicoで再構築した。その後、既知のRecAフィラメントの座標を元に、10量体からなるRad51フィラメントを構築した。このフィラメントの溝にSwi5-Sfr1複合体は丁度充填される。この結合によってRad51フィラメントが活性型フィラメントとして安定化されると考えられる。

2. ガン抑制遺伝子産物Brca2によるRad51リコンビナーゼの活性制御

家族性乳ガンの原因遺伝子の一つBRCA2は、一本のポリペプチド鎖としては最長クラスに分類される分子量約40万の極めて大きな蛋白質をコードしています。そのため、これまでこの蛋白質全長を高純度に精製することは極めて困難でしたが、2010年に精製方法が報告されました。精製したBrca2蛋白質はヒトRad51と直接相互作用し、DNA鎖交換活性を促進することが示されています。我々もこの点に注目し、Swi5-Sfr1複合体の活性との異同に注目して解明を開始しました。


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3. 試験管内再構成系による組み換え中間体Holliday構造形成反応の解析

Holliday構造は、相同な2組の二重鎖DNAが、お互いに相補鎖を交換してできたユニークなDNA高次構造で、組換え反応における重要なDNA中間体の一つです(図3)。2008年に、私たちは、Rad51リコンビナーゼがDNA鎖交換反応によってHolliday構造を形成することを世界で初めて示しました。[Murayama et al.,Nature 451(2008)]。引き続き、減数分裂特異的なDmc1リコンビナーゼによる試験管間Holliday構造形成反応にも成功しています。[Murayama et al.,Genes Dev.25(2011)]。現在、これらの反応機構を詳細に解析しています。

図3
JBC(2001)276の表紙を飾ったHolliday構造とその切断酵素RuvC。
4. 組み換え(修復)開始の分子機構

組み換え(修復)の初期反応には、Mre11-Rad50-Nbs1(NRN)やCtp1が働きます。これらの因子は複合体を形成して、DNA二重鎖切断末端をトリミングし、リコンビナーゼの基質となる3'末端突出単鎖DNAの生成に働くことが示唆されていますが、反応機構の詳細は不明です。我々はこれらのタンパク質複合体を精製し、組換え開始反応の試験管内再構成系を構築して反応機構に迫ろうとしています。


図4
DNA二重鎖切断末端に結合したMRN-Ctp1複合体のモデル。Williams et al.Cell.36(2009)から引用。
5. 分裂酵母の接合型変換の分子機構

分裂酵母には高等生物の性に相当する接合型が存在します。この接合型は、細胞分裂にともない、あるルールに従って変換していきます(接合型変換)。接合型変換の反応原理は、接合型決定座位での遺伝子変換であり、そういう意味では一種の部位特異的組換えですが、相同組換え機構が関与することがわかっています。さらに、この機構は、DNA複製停止機構やヘテロクロマチン形成・維持機構と巧妙に供役していることが明らかにされており、驚くべき精緻な制御機構が存在します。私たちは、そのメカニズムを分子レベルで解明し、試験管内で再現しようとしています。


最近の論文

  1. Murayama Y. et al.(2011)The fission yeast meiosis-specific Dmc1 recombinase mediates formation and branch migration of Holliday junctions by preferentially promoting strand exchange in a direction opposite to that of Rad51. Genes Dev. 25(5):516-27.
  2. Williams RS. et al.(2009)Nbs1 flexibly tethers Ctp1 and Mre11-Rad50 to coordinate DNA double-strand break processing and repair. Cell. 139,87-99
  3. Hishida T. et al.(2009)RAD6-RAD18-RAD5-pathway-dependent tolerance to chronic low-dose ultraviolet light.Nature. (2009) 457,612-615.
  4. Kurokawa Y. et al.(2008)Reconstitution of DNA strand exchange mediated by Rhp51 recombinase and two mediators.PLoS Biol.6:e88.
  5. Murayama Y. et al.(2008)Formation and branch migration of Holliday junctions mediated by eukaryotic recombinases.Nature. 2008 451,1018-1021.
  6. Akamatsu Y. et al.(2007)Fission yeast Swi5/Sfr1 and Rhp55/Rhp57 differentially regulate Rhp51-dependent recombination outcomes.EMBO J. 26:1352-1362.
  7. Haruta N. et al.(2006)The Swi5-Sfr1 complex stimulates Rhp51/Rad51- and Dmc1-mediated DNA strand exchange in vitro.Nat Struct Mol Biol. 13:823-730.

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